2021 SPRING

はじまりめぐり
−Vol.1きつねうどん−

はじまりめぐり

商人の町・大阪のソウルフード

甘く煮込んだ油揚げがおいしい、きつねうどん。そのルーツは、大阪市・南船場にある老舗うどん店「うさみ亭マツバヤ」にあります*。店主の宇佐美芳宏さんの祖父・要太郎さんは、明治26年、奉公先の寿司店から独立して「松葉家」を構えました。「『こんこんうどん』という名で、うどんと油揚げを別々に出していたら、お客様がうどんの中に入れて食べはった。それなら最初から一緒に入れたらええ。」と宇佐美さん。それが後に、きつねうどんと呼ばれて評判に。「油揚げといえば、商売繁盛にご利益のあるお稲荷さんのお使い、きつねへのお供え。縁起担ぎの意味もあったんでしょうな。」
だし、麺、油揚げが見事に調和したおいしさも、味にうるさい大阪人を魅了し続けた理由です。毎日手打ちする麺は柔らかく程よいコシがあり、だしとよくからみます。利尻昆布や屋久島の本枯節を使っただしは、まろやかで奥行きのある旨さ。一滴残らず飲み干したくなります。
*きつねうどんの発祥については諸説ございます。

店主の宇佐美さんご夫妻

ふくよかな笑顔に魅せられて

120年以上3代にわたって守り続けた味を目当てに、遠方から足を運ぶ人、何十年も通う人が多数。「やっぱり、おいしいものは伝えていきたいからね。小さい頃から自然にやってきたことやから。」という宇佐美さん。気負いなく、心を込めて丁寧に。そんな姿勢が、味にあらわれています。「『おいしい』いうてもらうのが一番の幸せ。」というおかみさん。ふくよかなだしのようなお2人の笑顔に惹かれて、今日も常連さんがのれんをくぐります。

不便な時代の工夫が名物に

お店のもう一つの名物が、おじやうどんです。第二次世界大戦中で食糧がない時に、先代が「ごはんとうどんが半分ですみ、おなかがふくれる」と手に入る材料を煮込んだのが始まりです。戦後、お客様のリクエストで復活し、きつねうどんと並ぶ看板メニューになりました。特製の南部鉄器に、うどんとごはん、鶏肉、穴子、椎茸、刻み揚げを入れて、グツグツと。戦時中の先が見えない時代、工夫とやさしさがあふれる味は、お客様のおなかと心をあたたかく満たしたことでしょう。

おじやうどん(税込820円)
おうどんの下に味のしみた“おじや”

船場で愛された“ごちそう”

小田巻蒸しは、うどんを入れた茶碗蒸し。今は提供する店も数少ない、大阪の郷土料理です。「昔は船場の商人さんが、お正月やハレの日に召しあがっていたようですな。卵やエビは、当時めったに口にできん高級食でしたから。」と宇佐美さん。今では素材こそ手に入りますが、手間と時間がかかるという意味では何よりの贅沢。「手の込んだもん」を食べる幸せを、ここマツバヤで味わってみませんか。

小田巻蒸し(税込1,200円)
大阪の郷土料理、小田巻蒸し。おうどんの入った大きい茶碗蒸しは、船場のハレの料理。
*前日までに要予約11:00~14:00の繁忙時を除く

うさみ亭マツバヤ

大阪市中央区南船場3-8-1
TEL.06-6251-3339
営業時間/11:00~18:00
定休日/日曜・祝日
営業時間・定休日は変更となる場合がございます。
ご来店前に店舗にご確認ください。

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