2021 SPRING

つなぐこと・つながること〜美を語る庭から 有斐斎弘道館〜

多くの人に支えられ蘇った美しい有斐斎弘道館の露地庭。
江戸時代の数寄屋建築を今に伝えている。

先人の未来である今の私たちにつないでくれたもの

有斐斎弘道館
(ゆうひさい こうどうかん)
館長 濱崎 加奈子さん

京都御所を西側へ少し行くと、古くからの日本の文化、伝統に触れることができる美しい場所があります。ここは有斐斎弘道館。今の佇まいからは想像もできない荒れ果てた庭や建物は、10年余り前は取り壊しが決まっていたそうです。江戸時代の儒者・皆川淇園(みながわきえん)の学問所跡であるこの地を危機一髪で救い、有斐斎弘道館として、ここを拠点に文化講座やイベントのプロデュースなど、多彩な活動をされている館長の濱崎加奈子さんを訪ねました。
こちらの手入れを始められたご縁を伺うと「ここが取り壊されたら日本の文化を肌で感じる事ができる場所がほとんど無くなってしまうな…と、一念発起しまして、あれから10年以上も経ったのか…と驚いています。」 詩文や絵画に優れ、円山応挙など当時のトップレベルの文化人と交流していた希代の天才・皆川淇園のサロンには、「美や心地よさを発見できる“しかけ”があちらこちらにあって、活動を始めて10年以上経った今も、まだまだ新しい発見と感動があるの!!」と、目をきらきら輝かせている濱崎さんのお話は続きます。

美を語る庭

庭の手入れをしていたある日、「誰かに褒めてほしいと思うほど辛く、私は何のために頑張っているのだろうと思ったことがありました」と濱崎さん。「それは私が庭と”対話”できてなかったからなんですね。お茶の世界ではお客様のために庭を清めるのですが、究極のところは誰のためでもなく、ましてや自分のためでもないのですよ。そんな折、庭を眺めていて、『そうだ…、美のためなのだ』と、腑に落ちる瞬間がありました。美という規範をもって美を目指すから、人は我欲を超え、自然を愛し、自然と語らい、芸術を培って平和で豊かな心を育んでいくのではないかな…と。そう気づいてから、ここは『美を語る庭』、そう思って向き合っています。」とお話しくださいました。

つなぐこと・つながること

JOY CLASS編集部がお伺いした日、まだまだ寒い有斐斎弘道館の室内には、障子を通したやさしい日が射し、暖かく感じられました。「昔ながらの建築には、心地よさとともに、時に厳しさを与えてくれることもあります。“美”とともに、美を感じることのできる心を培ってくれる“しかけ”が仕組まれているのかもしれません」と濱崎さん。春のお菓子とお茶をいただきながら、お話を伺いました。
2020年4月。新型コロナウイルスの蔓延で、有斐斎弘道館も活動自粛を余儀なくされました。訪問者が途絶えた静かな空間・時間のなかで、濱崎さんはゆっくり、自分と向き合うことができたそうです。「ああ、息をしている。草は伸び、葉は落ちる。草も木も生きている。庭が語りかけてくれているようで、ここにいるだけで救われる思いでした。」 コロナ禍という試練の中で、不安を感じながらも今できることをやってみようと、庭の写真をSNSにアップし続けました。そして、「今は自分が試されている時。やってみたかったことを試すチャンス!」と手探りながら時代に応じた発信を模索。会えないのなら、新しいつながり方にチャレンジしようと、オンラインによる講座とお茶会の企画・開催を試みました。最初は失敗の繰り返しでしたが、そのうち海外ともつながってオンラインのお茶会が実現。「画面越しですが、人とつながる喜びを分かち合うことができ、そういった場の持つ力の偉大さを実感しました。人とつながることの大切さ、喜びを本当の意味で知ったのかもしれません。守り育てられてきた技や人々の想いの集積が伝統文化。災害をも含んだ自然と共生する生き方や、伝統文化の豊かさ、次の時代を生きる知恵が詰まっている宝箱だと思っています。」と伝統を未来へつなぎ、人とのつながり、人と人をつなぐことに情熱を注ぐ濱崎さん。時代を軽やかに行きかい、さまざまな知を集め、つないでいた皆川淇園が、美を語る庭から、そっと温かく見守ってくれているようでした。

桜の美を表現した3種のきんとん。
江戸時代の尼僧・歌人・陶芸家である大田垣蓮月の器で。
一服のお茶に、心をほっと和ませる力が。
お茶碗:陶芸家・小川待子さんの作品

加奈子先生のオススメ講座一部紹介

  • 能あそび「能劇『屋島 那須語』」【弘道館、オンライン同時開催】

    ・日時/4月9日(金) 18時30分〜20時
    ・参加費/10,000円 ・オンライン参加費/2,000円
    ・講師/林宗一郎(観世流シテ方能楽師)
    ・ゲスト/茂山逸平(大蔵流狂言師)、有松遼一(高安流ワキ方能楽師)

    謡と型のみで一曲をおりなす、弘道館特別版「能劇」。

  • 信仰からみる京都「青岸渡寺(第一番)/革道(第十九番)」【オンライン開催】

    ・日時/4月10日(土) 11時〜12時
    ・講師/太田達(有斐斎弘道館 理事)
    ・オンライン参加費/2,000円

    毎月「西国三十三所」の札所を巡り、その地を紐解いていきます。

  • 日本の祭と神賑(かみにぎわい)「『祭』VS『疫病(新型コロナ)』」【オンライン開催】

    ・日時/4月18日(日) 11時〜12時30分
    ・講師/森田玲(玲月流初代 篠笛奏者)
    ・オンライン参加費/2,000円

    コロナ禍における各地の祭の実態を通して「祭」の本質に迫ります。

有斐斎弘道館(ゆうひさい こうどうかん)
館長 濱崎 加奈子さん

公益財団法人有斐斎弘道館代表理事。伝統文化プロデュース連主宰。京都大学文学部美学美術史学専攻を卒業し、東京大学大学院博士課程修了。学術博士。
香道・茶道・能楽・日本の美学・伝統文化論を専門とする伝統研究者。専修大学文学部准教授、北野天満宮和歌撰者や京都観光おもてなし大使など、多方面で活躍。

公益財団法人 有斐斎弘道館
(Yuuhisai Koudoukan)
〒602-8006 京都市上京区上長者町通新町東入ル
元土御門町524-1
https://kodo-kan.com/

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