青い海へ向かう青い道の途中 
                      町の小さな本屋さん~本と出会う~

神戸:自由港書店

神戸・須磨海岸に向かう
青い道の途中に灯りがともる
小さな本屋さん。
自由港書店・店主の旦 悠輔さんを訪ねました。

まるで物語か小説のなか 町の本屋さん

自由港書店・店主の旦 悠輔さん
自由港書店・店主の旦 悠輔さん
書店からほど近くにある須磨海岸
書店からほど近くにある須磨海岸

JR神戸線・須磨海浜公園駅から海岸への青い一本道を歩いていくと、青い布が風にたなびき、マリンランプが灯るタイル壁のレトロビル。その1階に、まるで絵本か小説に出てくるような小さな小さな町の本屋さんー2021年5月に開店した、自由港書店があります。
「ふと立ち寄った本屋さんで何げなく目に入った本が、手に取った人の心に語りかけたり、自分の本当の気持ちに気付かせてくれたり。そんな出会いがあれば嬉しいです。」と店主の旦悠輔さん。素敵な絵や絵本、海外の詩集、小説やエッセイに料理本、日本の古典文学…幅広いジャンルの本が棚を飾ります。「こだわらないのが、こだわりです。」と微笑む旦さんの懐深いお人柄がうかがえる本が揃います。

「本屋さん」という夢のはじまりStory

「今の道を選べたのは、立ち止まれたから。」と旦さん
「今の道を選べたのは、立ち止まれたから。」と旦さん
一冊ずつ心を込めて選ばれた本がそろいます
一冊ずつ心を込めて選ばれた本がそろいます

本屋開店に向けて動き始めた2020年春、新型コロナウイルスが世界を席巻。世の中の動きが止まり、人々の交流もままならなくなった折に、今の自由港書店の物件に出会い、一目ぼれで契約。本屋さんへの1歩を踏み出しました。
「ちょうどその時期に、イギリスの海辺の街で、数々の試練に負けず、書店を開く女性の物語に出会いました。今振り返ると、その本にとてつもない力をもらっていたのかもしれません。『一人でも、いい本と巡り会ってくださったらそれでいい。』と、僕の背中を押してくれたその物語のように、本がここを訪ねてくださった方の気づきやきっかけになれば、本屋みょうりに尽きますね。」

店主の旦さん、本屋さんを始める前は、IT企業で先端を走っていた経歴の持ち主。大学卒業後、東京でITコンサルティング会社に勤め、のちに動画配信サービス会社へ移り、32歳で取締役に。時代の最先端を走り、会社の先頭に立って秒単位の激務に追われていたのだとか。仕事はやりがいがあり、専門性を活かせるものでした。しかし、そんな日々のなか、30代後半になって「40代、50代もこのまま走り続けるのか」「何か違う」という気持ちが少しずつわきあがってきたと言います。いったん立ち止まることになった旦さんの心に生まれたのは、「自由―自分の気持ちに正直に生きたいという願い―を大切にする仕事がしたい。」という想いでした。何をすれば、自分の心に寄り添い、自分を活かすことになるんだろう?
「すべてをリセットしてゼロになる。“そこからだ”と思いました。」ご自身の気持ちを大切にして、出てきた答えが「昔から好きだった本屋さんになる!」でした。「本は、時間を止めてくれるもの。いつでもどんな自分でも、温かく迎えてくれる本との出会いを。」と、本屋を生業とする道を歩み始めました。

人のめぐりあいのように、本とめぐりあう

心豊かな世界へ誘う、読書のひととき
心豊かな世界へ誘う、読書のひととき
本の並べ方にも、旦さんの想いや遊び心が感じられて
本の並べ方にも、旦さんの想いや遊び心が感じられて
風と陽ざしが通り抜ける店内
風と陽ざしが通り抜ける店内

つい手に取りたくなる本の数々。棚には、ほどよい間隔で本が並べられています。
エッセイが並ぶ棚に、俳句が混じっていたり、平積みされた本の下に別の本が重ねて置かれていて、1冊を手に取ると、また別の本を発見してワクワクしたり。「本同士のつながりや流れを考えながら、ジャンルにとらわれず、遊び心で本を並べています。偶然の“スキ”や遊びが生まれ、楽しい気がしています。」
“いい本”に出会う秘訣は、「試し読みが一番!」と旦さん。時折、店の前の通りから子どもの声や鳥の声が心地よく聞こえるほかは、静かな店内。穏やかな時が流れる空間で、つい長居していろんな本をひもときたくなります。
お買い上げいただいた本には、その人との縁、その本を気に入ってくださった物語があると、旦さんのお話は続きます。

暮らしのなかの1ページ つづり続ける物語

海に近い書店らしい本を発見! (「うみべのまちで」BL出版・刊)
海に近い書店らしい本を発見! (「うみべのまちで」BL出版・刊)
手書きの文字がやさしい、オリジナルの売上伝票
手書きの文字がやさしい、オリジナルの売上伝票
執筆活動や新たなチャレンジに意欲的な旦さん
執筆活動や新たなチャレンジに意欲的な旦さん

店内の本には、1冊1冊、旦さんの手書きによる栞がついています。実はこの栞は、本の売上管理のための伝票なのです。ご自身で選んだ本を愛情たっぷりに大切にしている旦さんの心が表れているようです。
お買いあげいただいた本の栞には、たとえば「お孫さんへのプレゼント」など、自由港書店を訪れた方と本のエピソードをメモとして綴っているのだそう。またお越しいただいた時にお話ができるように、そして次におすすめする本選びのヒントになればという想いからです。
エッセイを手に心和むひとときを愉しまれる方、子供の頃に大好きだった絵本を見つけて笑顔でお求めになる方、万葉集について書かれた本を通して日本の言葉の美しさに惹かれていく方も。手書きの栞は、お客様の「暮らしの1ページ」の大切なエピソードであり、自由港書店が歩んできた道のりの記録。また、旦さんご自身の宝物として、大切に保管されています。

気持ちに寄り添って、これからも

さりげなく置かれたランプにも旦さんのセンスが

オープンから2年が経ち、たくさんの方々が本と出会い、旦さん自身もかけがえのないお客様との出会いを重ねてきました。「お客様の喜びが私の喜びと、本屋の店主となって初めて実感しました。私の方がお客様から力や喜びをいただいて今があることに、栞が気づかせてくれました。“私の店”として始まったこの場所は、私の生きがいでありながら、“開かれた港”であると感じています。そして、これから10年、さらに20年と、続けていく活力を与えてくれる場所です。」

「ハルのきもちいろいろサイコロ」
(制作:NPO法人ぷるすあるは)

本屋さんの店主というお仕事に加えて神戸市の広報アドバイザーも務め、地域に根差す道を歩む旦さん。最近は執筆活動も。数十年後、“本屋のおじいさん”となった旦さんの姿も楽しみです。
読書の秋。デジタルデトックスをして、本を手にとってみませんか?

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自由港書店・店主 旦 悠輔さん

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。コンサルティング株式会社勤務を経て、動画配信サービス会社の取締役等を歴任。2018年、IT・Web・クリエイティブデザインの総合個人事務所・旦悠輔事務所を設立。2019年、株式会社自由港書店を設立。2021年、自由港書店を開業。2022年より神戸市役所市長室広報戦略部所属の神戸市広報クリエイティブ・ユニット・アドバイザーとしても活動中。

2023年7月現在の情報です。

■自由港書店

神戸市須磨区衣掛町
4丁目2番12号 内田ビル1階
(JR須磨海浜公園駅南方面口正面/
ビーチに向かう青い一本道の途中)
営業時間/木曜日 11:00~18:00 金・土曜日 13::00~18:00 https://jiyukoh.jp/