謎の天才絵師が描いた、
物語絵

俵屋宗達といえば、国宝「風神雷神図屏風」などで、名を馳せた天才絵師。一方でその生涯は謎に包まれ、多くの作品が「おそらく宗達の作品」とされて、「伝 俵屋宗達筆」と紹介されています。
「俵屋宗達は、もともと桃山後期から江戸初期の京都で『俵屋』という扇屋を営んでいたようです。」と話してくださった後藤さん。1人の絵師ではなく工房として扇絵や屏風、掛け軸の製作を手がけ、その卓越した実力は当代一流の貴族や武将、文化人も認めるほどだったとか。
「京都では朝廷の御用絵師だった土佐派というやまと絵の流派が活躍しましたが、当時は戦乱を避けて大坂・堺へ逃れていました。土佐派のいない京都で、貴族や文化人のニーズに応えたのが宗達だったのか、多くの物語絵を描いています。」
物語を愛する人たちの期待に応えるように、昔からたくさんの絵師が画題に選んできた物語絵、さてはて宗達は、どのように描いたのでしょう?いざ、宗達の物語ワールドへご一緒に。

「京都では朝廷の御用絵師だった土佐派というやまと絵の流派が活躍しましたが、当時は戦乱を避けて大坂・堺へ逃れていました。土佐派のいない京都で、貴族や文化人のニーズに応えたのが宗達だったのか、多くの物語絵を描いています。」
物語を愛する人たちの期待に応えるように、昔からたくさんの絵師が画題に選んできた物語絵、さてはて宗達は、どのように描いたのでしょう?いざ、宗達の物語ワールドへご一緒に。

貴公子のラブストーリーは、金色に輝く絵物語

伊勢物語図色紙

『伊勢物語』と『源氏物語』は、平安時代から読みつがれた物語の金字塔です。『伊勢物語』は在原業平をモデルとした平安期の貴公子の恋もようを描いた歌物語で、とりわけ宗達が好んだ画題と言われています。「『源氏絵』といえば土佐派という定評があり、宗達はあえて異なる『伊勢絵』に活路を見出したのではないでしょうか。」と後藤さん。
ここでは、宗達工房でつくられた「伊勢物語図色紙」にスポットをあててご紹介します。「伊勢物語色紙」は金泥や濃彩の顔料を贅沢に使った絵と書で構成され、計59図が現存しています。
「メリハリが効いた大胆な構図は、さすが宗達です。物語の舞台となる山河が、緑青や群青など顔料の混ざり具合だけで表されているでしょう?これによって、精緻に描かれた人物や書が引き立っています。物語や和歌が織りなす世界に、おのずとひきこまれるわけです。」また、時に雲や地を表し、すべての色紙の基調となっているのが、たくみな金泥使い。金色に輝いて、夢のように雅やかな王朝物語へ誘います。
さらに、「おもしろいことに、色紙によって男の鬢(びん、耳前のひげ)の描き方が違うんですよ。」と後藤さん。宗達工房で別の絵師が描いたことのあらわれかも?と想像がふくらみます。

大らかさと繊細さ
宗達の源氏絵

源氏物語 松風図 伝俵屋宗達筆
源氏物語 横笛図 伝俵屋宗達筆
源氏物語 絵合図 伝俵屋宗達筆
源氏物語 蓬生図 伝俵屋宗達筆
源氏物語 真木柱図 伝俵屋宗達筆
源氏物語花宴 伝俵屋宗達
伊勢絵だけでなく、宗達は大ベストセラー『源氏物語』も描いていました。今回ご案内するのは、もとは屏風に描かれた源氏絵がのちに裁断されたシリーズです。なかでも代表的なのが、コレクターの團琢磨氏が所蔵していた「団家本」と呼ばれる源氏絵で、裁断された今は計54図にわかれています。
「金銀泥の使い方を見ても、ときに大らかで、ときに繊細。緩急自在な筆使いに、宗達らしさがにじみます。また、緑青が使われている部分を見ると、粒子の質感まで見える部分があります。気品香る正統派の土佐派とは、対照的です。」
一つひとつの絵がパズルのように本来の屏風の形になると、あることに気づきます。「流れるような雲間から見える屋根のラインが、まっすぐななめに伸びています。とてもグラフィカルでモダンな構図に、驚かされます。」
後藤さんによると、伝統を重んじる土佐派に対して、宗達は見た人の想像をかきたてる描き方をとっているそうです。「たとえば、この『真木柱』を描いた絵をご覧ください。父の離婚で邸を出ていくこととなった真木柱という姫が邸にたいして『私を忘れないで』と歌に詠んで柱の割れ目に差し込んでいくシーンです。土佐派なら手紙もはっきり描きますが、宗達の絵では柱に手をあてる女性のみ。あまたの絵師が描き、それゆえに型も固まっている画題で、独自性を追求する宗達の姿が浮かびあがります。」

後藤さんによると、伝統を重んじる土佐派に対して、宗達は見た人の想像をかきたてる描き方をとっているそうです。「たとえば、この『真木柱』を描いた絵をご覧ください。父の離婚で邸を出ていくこととなった真木柱という姫が邸にたいして『私を忘れないで』と歌に詠んで柱の割れ目に差し込んでいくシーンです。土佐派なら手紙もはっきり描きますが、宗達の絵では柱に手をあてる女性のみ。あまたの絵師が描き、それゆえに型も固まっている画題で、独自性を追求する宗達の姿が浮かびあがります。」

「たらしこみ」の
始祖の名画に会える

これまでご紹介してきた物語絵は、和泉市久保惣記念美術館で9月17日から開催される特別展「宗達-物語の風景 源氏・伊勢・西行-」で、ご鑑賞いただくことができます。「伊勢物語色紙」は計59図のうち36図、計54図の源氏物語図屏風団家本は25図が、出展される予定です(前後期で出展作品は入れ替わります)。このほか、放浪の歌人・西行の生涯を記した「西行物語」絵もお楽しみいただけます。
特別展の大きなハイライトとして、宗達水墨画の最高傑作とうたわれる国宝「蓮池水禽図」が登場する点も、見逃せません!顔料や墨を塗り、それが乾かないうちに違う色を“たらし”、にじみや深みを出すという宗達が考案した「たらしこみ」の技が、効果的に使われています。
クリエイティブな感性を発揮し、物語絵で人々を魅了した宗達。優雅な物語絵の世界に、心を遊ばせてみませんか。

特別展「宗達-物語の風景 源氏・伊勢・西行-」

●9月17日(日)~11月12日(日)

江戸時代初期に京都で活躍した俵屋宗達の、「源氏物語」「伊勢物語」などの物語絵をお楽しみいただく展覧会。宗達は、土佐光吉が京都から戦乱を避けて堺にいた時に、京都で絵画を制作していました。土佐派が得意とした源氏絵において、土佐派とは異なる表現が見られるのが特徴的です。宗達と宗達工房による物語絵を中心に、国内の博物館や寺院ほかの所蔵品と併せ、約100点の作品で構成いたします。

2023年7月現在の情報です。

1982年に開館した、大阪府和泉市立の美術館。日本と中国の絵画、書、工芸品など東洋古美術を中心に約12,000点をコレクション。年4回の企画展と年1回の独自企画の特別展を開催しています。2,000坪を超える美術館の敷地には、和風庭園や睡蓮の浮かぶ池などもあり、四季折々の自然を楽しめるのも魅力です。展覧会以外にも、茶会やコンサート、市民による作品展など、創作活動や発表の場を提供しています。

■和泉市久保惣記念美術館

〒594-1156 大阪府和泉市内田町3-6-12
TEL. 0725-54-0001https://www.ikm-art.jp休館日/月曜日(祝日・振替休日の場合は翌平日)、    陳列替期間、年末年始