響き合う芸術
―オーケストラの音色に誘われて―

東京フィルハーモニー交響楽団

年の瀬になると聞こえてくる、
ベートーヴェンの「第九」のメロディ。
この時期ほどオーケストラの音色に
心惹かれる時はないのではないでしょうか。
オーケストラの音楽と、年末の風物詩「第九」の魅力について、東京フィルハーモニー交響楽団を訪ね、コンサートマスターの三浦章宏さんにお話を伺いました。

オーケストラの演奏は生きもの

オーケストラの演奏は生きもの
オーケストラの演奏は生きもの
オーケストラの演奏は生きもの

「空間と時間の魔力、マジックかな?オーケストラの音楽のおもしろいところは。」オーケストラの魅力について、目を輝かせながら三浦さんのお話が始まります。「素晴らしい底なしの魅力は、100人近くの人が、様々な楽器で同じ目標に向かって同時に演奏されるオーケストラは、“人”それぞれが個性を持っていて、どう思って音楽をやるかもそれぞれ。そういう様々な感じ方や考え方の“個”の集まりです。そのうえ高いレベルの楽器のプロの集まりで、気持ちが伴うものだから、1+1=2ではなく、プラスαになって生まれる音楽のマジックがあり、世界中で愛される深みがあると思うのです。そして、やはりそうさせてくれる指揮者の存在がとても大きいです。」
三浦さんのお話は続きます。「スケールがとてつもなく大きく、その魅力にふれることができる代表的な曲のひとつに、皆様にもお馴染みの、ベートーヴェンの『第九・合唱付き』があります。オーケストラに加え、独唱、合唱も加わって壮大なハーモニーが奏でられます。その演奏の時、空間、心-そして奏者だけでなく会場に来られている観客の皆様がひとつになっていく化学反応のような瞬間があります。まさに“生きもの”のような、音楽の力です。」

“楽聖”ベートーヴェンの最高傑作「第九」

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770年~1827年)
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770年~1827年)
エネルギーと革新に満ちた『第九』
エネルギーと革新に満ちた『第九』

フロイデ!空間を揺るがすような演奏に胸が高鳴り、みんなの心がつながる「合唱」を第4楽章に構成する「第九」。「18世紀末から19世紀にかけて活躍したドイツの音楽家・ベートーヴェンが人生の集大成として作曲した、9番目にして最後の交響曲。西洋音楽史上最も偉大な交響曲のひとつです。」
三浦さんに、音楽界に燦然と輝く“楽聖”ベートーヴェンへの想いを伺いました。「ベートーヴェンは『巨人』ですね。彼ほど強い意志で曲を書き続け、生きることへのエネルギーを感じられる音楽家はいません。常に新しいものを創造するエネルギー、さらに言えば生きることへの強烈なエネルギーを、彼の曲から感じます。交響曲に初めて声楽を取り入れた作品のラストを飾る第4楽章は、有名な『歓喜の歌』の独唱と合唱が加わる構成です。当時の古典派クラシックにはなかった衝撃的な構成は、現代の私たちが思う以上に革新的だったはず。『第九』は弓の毛が切れてしまうほど練習や演奏を重ねても、弾き枯れることがありません。演奏するたびにスケール感と強いメッセージを感じ、新しい気づきがあり、「もっと、もっと」と自身の演奏に欲が出てしまいます。曲が偉大で、自分たちが引き込まれるのです。」

喜びと平和 ~人間賛歌~

ヴァイオリンを奏でる三浦さん「魂を込めて」
ヴァイオリンを奏でる三浦さん「魂を込めて」

ベートーヴェンが「第九」に込めたメッセージについて、三浦さんが話してくださいました。「『第九』はまるでオペラのようなストーリーを奏で、苦しみから歓びの4楽章へ。非常に力のある、とてつもなくすごい曲です。“ザ・ベートーヴェン”と言えば交響曲第3番の『英雄』でしょうが、『第九』は不協和音や声楽など斬新な表現を意欲的に採り入れ、『もっともっと、いいものを…』と希求する情熱を強く感じる曲です。さらに、人間として生きる歓び、人に対しての想いにあふれています。ベートーヴェンは、愛する人と別れ、晩年に聴覚を失うなど、遺書を書くほど絶望の淵をさまよいました。彼の歓びへの渇望は、どれほど強かったかと想像します。苦難のなかから光と希望を見出したベートーヴェンの渾身の作品『第九』は、彼の人生の軌跡でもあり、大いなる人間賛歌と言えるでしょう。平和を願い、音楽で心をひとつに結ぼうと願う強いメッセージが込められています。」ヨーロッパではベルリンの壁崩壊など歴史的なイベントや祝典などで演奏され、日本においても歓びを称えるこの名曲は、やがて一年を締めくくるメロディとして親しまれるようになりました。

創立111年。東京フィルハーモニー交響楽団の歩み

いとう呉服店少年音楽隊
いとう呉服店少年音楽隊
松坂屋管弦楽団と改称された1932年の演奏プログラム
松坂屋管弦楽団と改称された1932年の演奏プログラム

1911年(明治44年)3月18日に、新聞で公募した12名編成の少年音楽隊が誕生しました。ナポレオン型といわれる斬新なデザインの美しいビロードの制服を着け、鉄道省歌、童謡などを演奏し、たちまち子どもたちの人気をさらった楽団の名は、「いとう呉服店(松坂屋)少年音楽隊」。同年4月1日に名古屋店の児童用品陳列会で、初演奏が行われたのが始まりです。当時の松坂屋初代社長である伊藤次郎左衛門祐民の「文化志向」によって、お客様にお愉しみいただく「幸せなひととき」のために編成された音楽隊でした。

その後、元海軍軍楽隊隊長の沼泰三氏が楽長に迎えられ、松坂屋内洋楽研究会の名で大人のオーケストラとして本格的なシンフォニーの演奏を始め、その後松坂屋シンフォニー、そして中央交響楽団への改称と同時に、拠点を東京へ移します。第二次世界大戦前後の混乱のなかで存続が危ぶまれた時期にも、灯を絶やすことなく演奏を続けた楽団で、松坂屋もその活動に力を注いだ企業のひとつでした。

1948年に東京フィルハーモニー交響楽団と改称。お客様の笑顔のために生まれた少年音楽隊は、より多くの人々に歓びをお届けし、心豊かな調べを奏でるオーケストラへと発展していきました。日本で一番歴史の長い交響楽団として、その歩みのなかで、オペラや総合芸術に力を注ぎ、日本の音楽界で主導的な役割を担ってきました。

今の東京フィルハーモニー交響楽団は、どのようなオーケストラなのでしょう?「日々研鑽、より高みを目指して鍛錬を重ねている楽団です。また、クラシックだけでなく映画音楽やアニメソングなど幅広いレパートリーを持ち、柔軟性が高いのが強みでしょうか。とくに『東京フィルと言えばオペラ』と言っていただけるほど、オペラとバレエの演奏が日本で最も多い楽団です。オペラは舞台に歌手がいて、舞台装置や演出も加わり、演劇、音楽、感情、色彩をストーリーに込めていく総合芸術で、すべてが合わさって初めて感動を与えられるものです。回を重ねてもなお勉強になることが多いオペラやバレエの音楽に関わることは、上手に演奏するだけではない豊かな経験を私たちに授けてくれます。」三浦さんの音楽にかける探究心の強さが伝わってきます。

つながる奇跡の時-心がひとつに

つながる奇跡の時-心がひとつに
つながる奇跡の時-心がひとつに
つながる奇跡の時-心がひとつに
つながる奇跡の時-心がひとつに

演奏会が開幕する時のドキドキ。コンサートマスターが立ち上がり、チューニングの始まり。コンサートマスターの音に続き、オーボエの「A(アー=ラの音)」が響きだす。弦楽器が、管楽器が…チューニングは、コンサートマスターにそれぞれが音と心を揃える瞬間です。三浦さんが務めるコンサートマスターは、オーケストラのリーダーです。頼もしい大樹に、多くの楽器の音色が集います。

コンサートマスターとしての想いを伺いました。「楽団員のみんなが好きにやればいいと思っていて、私の責務は“一番良いものはどこだ?”と探し続けること。全てを統括する、オーケストラの中心は指揮者です。“リーダーの自分が引っ張るんだ!”という気迫だけでは、うまくいかないですね。一人のヴァイオリニストとしての演奏は、作品の素晴らしさと魂を楽器で伝え、音で表さないといけなくて、そこには鍛錬が必要です。オーケストラの奏者は、コンサートマスターの息づかいや指の動きを見ながら、みんなが呼吸を合わせるわけですから、揺らがず太い、それでいてしなやかな幹になることが大事。それを追求し続けています。」

さらに、三浦さんは続けます。「いつも思うのは、今が大事ということ。今の連続は日頃になり、日頃が積み重なると歴史になる。ですから、東京フィルも今が積み重なって現在があるわけで、そこに歴史の重みを感じます。この冬も、『第九』の演奏会を予定しています。世界中で様々な出来事があった今年は、いつにも増してベートーヴェンに心を寄せた演奏にしたいですね。」

予定されている冬の『第九』の演奏会は、日本屈指のコンサートマスター・三浦章宏さんと、彼が最も敬愛する指揮者の一人である東京フィルの桂冠指揮者・尾高忠明さんのタクトによる共演です。指揮者が登場。その瞬間、その時でしか奏でられない、魂の演奏の始まりです。その底流には、日本を代表する楽団へと発展し、多くの感動を生み続けてきた111年の歴史があります。これからも、心揺さぶられる音楽が奏でられ、それぞれの人の心の虹色の時間になることを願ってやみません。さあ!熱い情熱がほとばしる演奏を聴きに、コンサートホールへ足を運んでみませんか?

Profile

三浦 章宏 さん

1961年大阪生まれ。1985年NHK交響楽団に入団。1999年新星日本交響楽団のコンサートマスターに就任。2001年より東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスター。日本クラシック音楽界で最も信頼されるヴァイオリニストの一人。

2022年10月現在の情報です。

■東京フィルハーモニー交響楽団

1911年創立。日本で最も長い歴史をもつオーケストラ。
定期演奏会などの自主公演、新国立劇場などでのオペラ・バレエ演奏、
各種メディアでの演奏、教育プログラムの活動をはじめ、海外公演でも高い評価を獲得。
TEL 03-5353-9522(東京フィルチケットサービス)https://www.tpo.or.jp/