日本の食文化にふれる旅 奈良・清澄の里
Route 大和伝統野菜・滋しみの味

秋—、JOY CLASSの食をめぐる旅は、かつて万葉の歌人たちに「清澄(きよすみ)の里」と詠われた、奈良市高樋町(たかひちょう)へ。昔ながらの田園風景にたたずむレストラン「清澄の里 粟」の三浦雅之さんご夫妻を訪ね、大和の伝統野菜の魅力にふれる旅に出かけました。

ネイティブアメリカンの
村の暮らしから

今回の旅をご一緒いただいた三浦雅之さん・陽子さんご夫妻は、大和野菜を使った料理を提供するレストランを営むかたわら、伝統野菜を調査・保存する活動に取り組んでいます。福祉のボランティアで出会ったお2人は、その後結婚。新婚旅行はせっかくの門出の旅だからと、思い切ってアメリカへ長期の旅に出かけます。その長い旅の中で、縁あってネイティブアメリカンの村で過ごすことになり、人生が大きく変わるきっかけとなりました。主食のトウモロコシを軸に、村の文化、暮らしが豊かな絆のなかで継承されている生活体験から、高齢者も若者も関係なく生涯現役。先祖から受け継いでいるトウモロコシの種と、その暮らしに魅了されます。
あのトウモロコシの種は、日本では何にあたるだろう? 帰国した三浦さんご夫妻はふたたび、その答え探しの旅へ。日本各地をめぐり、そこでまた、地域の様々な暮らしの中心に伝統野菜があることに気づきます。「伝統野菜が残る地域では、里山の景観や伝統文化、コミュニティ機能が今も保たれていることに気づきました。消えつつある伝統野菜がこれからも続く暮らし方、またその種を実らせ暮らしに取り入れ続けることが、地域のつながりを育む手だてになり、健やかな暮らしに繋がると確信したのです。」

「ビビビッ」ときた
2つの運命的な出会い

伝統野菜の夢をかなえる場所をお2人が暮らす地元の奈良で探していた時、知人から紹介されたのが清澄の里でした。「これほど『ビビビッ』ときた運命の出会いは、妻の陽子と会った時と人生で2回きり。『ここは人が集まる、種火のような場所になる』と直感しました。」とほほえむ三浦さん。豊かな自然を残す清澄の里は多品種の伝統野菜を育てるのに向き、さらに市街地にもほど近い好立地。
ここを拠点に、伝統野菜の魅力を誰でも愉しめるようにするには?お二人の模索が続くなかで、「レストランはどう?」と陽子さんのひらめき。野菜の美味しさと魅力にふれ、『おいしいから、私もつくりたい』と種から自然に広がるような形がいい。私もその案に大賛成でした。」周囲の応援と協力に恵まれて、2002年に清澄の里 粟は誕生しました。

幻の粟「むこだまし」

今からいただく野菜を獲りに畑をご案内いただいた後、陽子さんにお料理をご用意いただいている間、レストランのテーブルにオブジェとして飾って下さっていた野菜のお話を雅之さんに伺いました。とても小さな粒が鈴なりになっている穀物が目に留まり、伺うと、なんと!!幻の粟「むこだまし」とのお話に。もちもちの食感から「米の餅」と偽って、お婿さんを騙せるほど美味しいことが名の由来で、粟の最高品種とされているのだとか。
実はこの「むこだまし」、絶滅寸前のところをひとつの出会いで蘇らせたのは、三浦さんご夫妻です。大和野菜について調べていた時、「むこだまし」という品種があることに行きつき、少ない情報を頼りに十津川村を訪ねます。そこでたった一人だけ、この種を保存していた女性に出会うことができました。譲り受けて帰った20年も前の種が奇跡的に発芽。その感動はお2人が始める店の名「粟」へ。「粟」は一粒万倍日の語源であることから、“大和野菜がこの種火のように、この場所から広がるように”との願いが込められています。今では看板メニューになっている“和菓子の粟生”はお食事の最後のデザート。後のお楽しみにいたしましょう。

7つの風と伝統野菜を
未来へつなぐ

それでは、大和野菜のお料理をいただきましょう!清澄の里で獲れた野菜約60種が登場するフルコースです。彩り美しく形や風味も様々な野菜たちは、実に個性豊か。陽子さんの味つけは、繊細にして絶妙。野菜の持ち味が見事に生かされ、口いっぱいに滋味が溢れます。お料理の説明は、三浦さんが担当。実物の野菜を見て、ふれて、野菜が主役の舞台パフォーマンスのような愉しさに惹きこまれてしまいます。「五感で大和野菜を味わって、たくさん仲良くなってほしいから。」
やさしくて味わい深い、まるで大和野菜のように魅力的なお2人に、今後の夢をお聞きしました。「伝統野菜は、風土・風味・風景・風習・風物・風儀・風情という『7つの風』と深く結びついています。奈良に限らず、皆さんがお住まいの地域でもきっと同じこと。私たちは伝統野菜を『7つの風』と一緒に、未来へつなげていきたいです。」
調査を始めた当時、わずか9種だった奈良の伝統野菜は、今では50種以上を数えるまでになりました。土を育むように、伝統野菜とのお付き合いをじっくり深めてきた三浦さんご夫妻。その想いと笑顔も万倍になって、これからも広がっていくことでしょう。
今回は奈良の大和野菜をご紹介しましたが、皆様の地元、故郷の野菜を探してみると新しい発見があるかもしれませんね。

※清澄の里 粟は、「ミシュランガイド奈良 2022特別版」に
ミシュラングリーンスターとして掲載されました。

粟生(あわなり) 税込528円  粟 大和野菜のフルコース 税込5,500円
※<完全予約制>前日16:00までに、お電話にてご予約ください。 ※1日10席限定

2022年7月現在の情報です。

■清澄の里 粟

奈良市高樋町861
TEL.0742-50-1055
営業日/原則として金曜・土曜・日曜日 ※不定休
営業時間/11:45~16:00(ラストオーダー 15:30)
※営業時間・休業日は変更となる場合がございます。ご来店前に店舗にご確認ください。
※駐車場10台