2021 WINTER

世にも麗しき 源氏物語今に伝わる大大名家 尾張徳川家・姫君の暮らしから ー徳川美術館ー

千年以上も輝き続ける源氏物語の魅力

古典文学の最高峰として読み継がれてきた源氏物語。その底なしの魅力は、どこにあるのでしょう。徳川美術館の吉川美穂さんにお話を伺いました。
「約千年も愛され、読み継がれてきたわけは、何より紫式部が紡ぐ筋立てがとてもおもしろいこと、そして物語をモチーフにした創作物がとても多いことでしょうか。登場人物は、約500人を数え、その登場人物が織りなす様々な人間模様を、紫式部の深い洞察力でこころの描写が巧みに表現されているところ、そして美しい“ことば”にこそ、読み継がれる魅力があると思います。『源氏見ざる歌詠みは遺恨の事なり』という言葉があるように、尾張徳川家の姫君たちの教養のなかで特に大事とされていた『和歌』と『古典文学』は、源氏物語から多くを知り、教養を身につけていかれました。約800首もの和歌が詠まれ、物語のなかには、遊芸、音楽、楽器、絵合わせや香といった芸事がたくさん出てきます。古典文学も源氏物語の中には多く織り込まれていて、日本の物語の始まりが『竹取物語』というお話であったり、『うつほ物語』や『伊勢物語』など、今の時代にも伝わる古典文学の数々が散りばめられています。また漢詩からの引用も多く、幼いころより源氏物語に触れ、様々な素養を身につけ、高めながら成長していかれました。」と吉川さん。源氏物語と共に過ごす姫君の暮らしはどのようなものだったのでしょう。

源氏物語抜書 賢木 伝 後光厳天皇筆

読書始め

「源氏長者」として武家社会を治めた徳川家では、「源氏」の物語として源氏物語が重視され、お正月の読書初めでは、おめでたい帖として「初音」の帖を読む習わしもあったそうです。
「婚礼の際は、古典文学の写本を美しく装丁した調度本がお嫁入道具として用意され、源氏物語はその代表でした。達筆な人が書いた写本は、書のお手本にもなりました。また源氏物語は54帖からなる長編のため、源氏箪笥という専用の書物箪笥がつくられ、とても大切にされました。」と吉川さん。物語は平安の昔から女性や子供の読み物とされ、姫君としての教養を身につけるために用いられました。姫君がまだ幼い頃は、現代の絵本と同じように、絵物語などを通して物語に触れ、成長と共に文字の本、たしなみの遊びへと、教養を深めていきます。
姫君達が生涯をともに過ごした源氏物語。徳川美術館には、美しく装丁された絵物語をはじめ、国宝「初音の調度」に代表されるお道具類にも、源氏物語をモチーフにしたものが多く伝わっています。

たしなみと遊びのなかの源氏物語

「箏・三味線や茶・華道などいかにも姫君らしい芸事のほか、長刀などの武芸も、武家に生きる女性として日頃から鍛錬を積まれていた必須のたしなみでした。」と吉川さんのお話は続きます。
「姫君たちは、日々のつれづれを過ごす娯楽として香合わせや貝合わせといった風雅な遊び、『三面』と呼ばれる囲碁・将棋・双六、かるたも楽しまれました。様々な娯楽のなかでも特に香には、江戸時代初期に考案された『源氏香』という雅な楽しみ方があるのですよ」とご紹介いただきました。
「源氏香」は香木を5種類用意し、それぞれ5包、全部で25包に分けます。このうち5包の香を順番にたき、競技者は同じ香と見定めたものを横線でつないで図形で表し、香を当てて遊びました。図形の組み合わせは52通りあり、源氏物語の「桐壺」「夢浮橋」をのぞく52帖に対応していて、「源氏香之図」と呼ばれました。優美でモダンな意匠は、お召し物や調度品のデザインとしても好まれたそうです。
このように様々なかたちで暮らしを彩り、愛されていた源氏物語。姫君たちが日常で楽しまれていた芸事や遊びともつながり、豊かな文化が広がっていたことがうかがえます。

  • 源氏香之図巻
  • 菊折枝蒔絵枕香炉
  • 純金葵紋蜀江紋沈箱

徳川美術館の紹介

御三家筆頭の尾張徳川家に受け継がれた大名文化を後世に伝えるため、19代義親により1935年に設立された美術館。「源氏物語絵巻」をはじめとする国宝9件、重要文化財59件など1万件あまりの大名道具を収蔵。
大名家伝来家宝のコレクションとして日本最大規模を誇ります。

〒461-0023 名古屋市東区徳川町1017 TEL.052-935-6262 https://www.tokugawa-art-museum.jp
休館日/月曜日(祝日・振替休日の場合は直後の平日)

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