2021 SPRING

上巳の節句~成長を願い、幸せを祈る愛情~今に伝わる大大名家 尾張徳川家姫君の暮らしから ー徳川美術館ー

有職雛 貞徳院矩姫(尾張家14代正室)所用

日本の重要な伝統遺産を受け継がれている、名古屋・徳川美術館。なかでも、初春の特別展「尾張徳川家の雛まつり」は、その壮観な日本有数のコレクションを楽しめる春の風物詩です。今も私達の暮らしに伝わり、変わらぬ願いを込める「上巳の節句」について、学芸部の吉川美穂さんを訪ね、お話を伺いました。

姫君の人生を彩り、愛されてきた雛飾りの数々

徳川美術館を訪れると、尾張徳川家ゆかりの姫君たちに愛された雛人形、雛道具の数々が展示され、そのコレクションの多さ、美しさに圧倒されます。今回、私達を迎えてくださった学芸部・吉川美穂さんに、いろいろなお話を伺って参りました。
雛まつりは、いつ生まれ、なぜこれほど親しまれるようになったのでしょう。
「女の子の成長と幸せを願う、3月3日の雛まつり。江戸時代、皇族や公家の多くの姫君が将軍家へ嫁いで来られ、江戸幕府において五節句を公式行事の日に定めたことから、雛まつりが盛んになり、女の子の節句として定着していったようです。」と吉川さん。その歴史を伺うと「雛まつりは、上巳(じょうし)の節句とも呼ばれますね。古代中国では、3月初旬の「巳」の日を上巳とよび、厄災を祓う慣わしがありました。それが日本に伝わり、不幸や罪を人形に移して水に流す風習や人形遊びと結びつき、雛飾りになったと言われています。かつては、紙で作られた雛人形はその後、座り雛となり、時と共に豪華に、洗練されていき、今と違って男女1対の雛を祖先から受け継いだものも含め、何組も飾りました。三人官女や五人囃子が登場するのは、江戸中期以降のことでした。」その江戸中期頃からは3月3日に女中や親類にも公開される「雛拝見」が催され、段飾りは最大で幅15m、高さ2mもあったとか。尾張徳川家も、将軍家に並ぶ規模の雛飾りであったと考えられています。
子供の成長が貴重だった時代、日本では昔から新生児の誕生の時、災難が降りかからぬよう、身代わりになる人形「天児(あまがつ)や這子(ほうこ)」と呼ばれる人形をつくり、枕元に置く習慣がありました。「天児」を男子、「這子」を女子に見立て、魔除けの犬張子を添えて、上巳の節句に飾ることもあったそうです。人形がお守りとして、とても大切にされてきたことを教わりました。

犬張子

矩姫(かねひめ)様・政姫(まさひめ)様 姉妹ゆかりのお雛様

矩姫は尾張徳川家14代慶勝夫人で、幕末から明治期を生き、さっぱりとした気性の賢夫人であったと伝えられています。15代茂徳夫人となる政姫は、矩姫の妹。この姉妹のお雛様から、当時の雛まつりの姿がうかがえます。公式行事としてのお雛様は、矩姫様のお雛様(ページトップ)にみられるよう、公家の装束を正確に再現した「有職雛」で、宮中のしきたりや文化を学ぶお手本としていたような立派な雛飾り、政姫様お手製のお雛様と伝わる「豆賀茂人形」などは、「御内証雛(ごないしょうびな)」と呼ばれ、プライベートな奥の部屋・空間で愛でられていた雛飾りがありました。大大名の奥方様も、奥の間で、今でいう手芸を趣味に、過ごしておられたようです。雛人形は、心を伝え合う贈り物でもあり、愛情を注ぐ対象であったのですね。お雛様のやさしい表情は、家族の愛情や命の尊さ、伝統文化の素晴らしさを教えてくれているようです。
「JOY CLASS」では、1年を通して、名古屋・徳川美術館から、日本の美しい伝統や文化をご紹介して参ります。

矩姫所用の豆賀茂人形 矩姫の妹で、十五代・茂徳夫人であった政姫の作と伝えられています。
Column

小さいものはカワイイ 日本特有の感性

芥子雛 江戸幕府が華美な大型雛に禁令を出したことに対して、
江戸中期以降に流行しました。

日本では古くから、小さく可憐なものにまなざしを向け、愛情や情熱を注ぐ事が多かったようです。『枕草子』の序文から「小さきものはみなうつくし…」とあり、「うつくしきもの」のひとつに、雛の調度が挙げられています。
実物を縮小し、精緻なミニチュアをつくる事の魅力を見出す感性は、日本特有のものだそうです。海外のある研究者は、「縮(ちぢ)みの志向」と表現しています。
江戸中期の随筆「雑交苦口記(まぜこぜにがぐちき)」にも、「女子の遊び道具である雛は、小さく可愛らしくつくること」と記述があり、「カワイイ」に惹かれる気持ちは、いつの時代も同じものなのですね。

徳川美術館の紹介

御三家筆頭の尾張徳川家に受け継がれた大名文化を後世に伝えるため、19代義親により1935年に設立された美術館。「源氏物語絵巻」をはじめとする国宝9件、重要文化財59件など1万件あまりの大名道具を収蔵。
大名家伝来家宝のコレクションとして日本最大規模を誇ります。

〒461-0023 名古屋市東区徳川町1017 TEL.052-935-6262 https://www.tokugawa-art-museum.jp
休館日/月曜日(祝日・振替休日の場合は直後の平日)

  • 一覧に戻る
  • 次の記事