かぞえきれないほど多くの美しい雨のことばが、日本にはあります。
どれだけの雨に気づけるだろう・・・

京都・東山七条にある築100年の洋館に、素敵な紙文具&雑貨ショップ・裏具があります。
春号:カタミチテガミの取材でお伺いした時に、雨を描いた表紙が美しい本が目にとまりました。
その名は、「雨を、読む。」
文具のデザインも手がける著者の佐々木まなびさんに、雨についてのお話を伺いました。

佐々木まなびさん
天の神様の目線で雨を描いた表紙絵。雨に舞う子龍の姿も

雨や水に恵まれてきた日本では、雨にまつわることばの表現がとても豊かです。そんな美しい雨のことばで彩られた、佐々木さんの著書「雨を、読む」。ページをめくるたびに、静謐な雨の気配と懐かしい雨の記憶に包まれます。とはいえ、日常では雨は敬遠されがち。いったい、なぜ雨の本を書くことに?「裏具のお店に来てくださったお客様が、実は出版社の編集をされている方で。私が自他ともに認める雨女とは知らず、『雨にまつわる文章を書いてみませんか』と声をかけていただき、その出会いに運命を感じました。」
佐々木さんの感性を通して、雨のことばへの想いを自由に綴ってほしい。そんなオーダーを受けて、佐々木さんは豊穣なことばの世界に誘われます。「日本では雨にまつわる言葉が数え切れないほど多くあるのですね。雨と親しくつきあってきた先人の贈りもののようなことばによって、様々な想い出が呼び覚まされました。執筆は初めてでしたが、昔からご縁を感じてきた龍神様に導かれるかのように書きあげることができました。」

「雨を、読む。」に“梅雨の蝶”についての文章が
小村雪岱「おせん 雨」 木版 昭和16年(1941)頃 清水三年坂美術館蔵

皆さんのまわりにも、きっと雨男や雨女さんがいるのでは?佐々木さんも大事な用事の時ほど必ず雨にあたり、「いやというレベルを超えて、もはやネタ(笑)。これも才能かなと思うほど」の雨女の大ベテラン。梅雨さえも、独自の視点で愉しんでしまいます。「『梅雨の蝶』という季語が好きで、まさに情景が目に浮かぶようです。雨の絵にも心惹かれます。とりわけのお気に入りが、大正・昭和期に活躍した日本画家・小村雪岱(こむらせったい)の作品。江戸時代の浮世絵もそうですが、雨を線で表現する感性が好きなんです。」
佐々木さんには、かつて旅先で見て忘れられない雨の風景があります。「富山にある美術館を訪れた時のこと。お約束のようにどしゃぶりで(笑)、水墨画のような線状の雨をうけ、庭園に凛とたたずむ1本の桜を見た時に、あまりの美しさに息をのみました。」雨がもたらす発見、恩恵。佐々木さんは、やわらかな心でそれらを受けとめていました。

雨をモチーフにした枝折やブックカバー
ヤドキツネ、シダルルの便箋 各税込715円

佐々木さんの雨に対する「愛」は、裏具のデザインにも宿ります。著書の発売と時を同じくしてデザインした枝折(しおり)のセットは、雨に降られたツバメやカエルをモチーフに。朱色と水のコントラストが美しい枝折は、鳥居を思わせる線が異世界との境界を表しているかのよう。枝折の裏にはメモやメッセージを書けるスペースがあり、ちょっとしたプレゼントにもおすすめです。雨のなかを飛ぶツバメのブックカバーは、たとえば雨の日にカフェに出かけて読書、というシチュエーションに似合いそうです。しだれ雨にしだれるシダ、縁の下で雨宿りするキツネを描いた便箋も。スタイリッシュでありながら、くすっと笑みを誘う遊び心と想像力をかきたてる“間”がある佐々木さんのデザインは、魅力たっぷりです。

執筆を通して、雨への感謝の想いを新たにしたという佐々木さん。「雨のことばには、『ありがたい』という意味が込められたものが多いんです。調べるほどに、雨は田畑の恵みであっただけでなく、政治や宗教にも関わる重要なものであったことに気づきました。はるか昔から日本では自然に対する畏敬の念を持ち続けてきたのでしょうね。」
雨が降ったら、ちょっと立ち止まってみて、新しい景色や心のなかを見つめてみる。気持ちが「虹色じかん」になるような愉しみを、佐々木さんにわけていただきました。
さて、今日の雨は、何という名の雨でしょうか?

profile

裏具 アートディレクター
佐々木 まなびさん

“気配、闇、間”に魅かれ、それらを意識したデザインを追求。1997年から20年間、書家・石川九楊氏に師事。茶道、美術館、劇場関係、装丁、広告のグラフィックデザイン、菓子メーカーの顧問、ショップの空間演出などのディレクションやデザインを手がけるかたわら、2006年京都・宮川町に紙文具店「裏具」、2015年三十三間堂南に「URAGNO」を株式会社グッドマンのプロジェクトとしてオープン。2020年京都・八坂通に初ユニットでのテキスタイルショップ「HAURA Kyoto Japan」をオープン。

2022年4月現在の情報です。

■裏具

京都市東山区塩小路通大和大路東入3丁目本瓦町672番地
TEL. 075-744-6540
営業時間/11:00~17:00 定休日/月・火曜(祝日の場合は営業)http://www.uragu.com※営業時間・定休日は変更となる場合がございます。ご来店前に店舗にご確認ください。