2021 WINTER

はじまりめぐり
−Vol.4 生活と文化を結ぶマツザカヤ−
カトレヤ文化教室〜松坂倶楽部〜

はじまりめぐり
令和3年国の重要文化財に指定内定した旧・松坂屋大阪店
(現・髙島屋東別館)の建物。昭和12年増築直後の店構え。
増築前、昭和2年当時 大阪店
カトレヤ文化教室は、2022年2月をもちまして終了させていただくことになりました。はじまりから約85年もの間、多くの会員様、また講師の先生との出逢いに感謝申しあげます。今回は、カトレヤ文化教室のこれまでの歩みを振り返ってみたいと思います。

趣味と社交の殿堂

好奇心を満たし、こころ豊かな時間をご提供する、文化教室やカルチャーセンター。その歴史は、松坂屋からはじまりました。日本初の文化教室として誕生したカトレヤ文化教室(旧松坂倶楽部)について、大丸松坂屋友の会 名古屋営業所長の鈴木さとりさんにお話を伺いました。
はじまりは、「昭和12年、大阪・日本橋にあった旧松坂屋大阪店の増築完成と同時に、文化サロンとして『松坂倶楽部』が設立されました。大阪店は、百貨店初の2人並び式エスカレーターやスケート場にもなる屋上プールなど、画期的な施設を備える大百貨店でした。松坂倶楽部も百貨店界に新機軸を打ち出し、お客様とのつながりを深めるために企画されたといいます。」
そのコンセプトは、「趣味と社交の殿堂」。7階・8階が松坂倶楽部にあてられ、7階には500席を収容する大ホールを開設。さらにはレコードの録音所までありました。

豪華な講師陣が評判に

講座内容の充実ぶりも、目を見張るほど。豪華な講師陣は、「各分野で第一流の権威者が指導にあたる、わが国最初でしかも最高といえる趣味の殿堂」と業界紙で絶賛されました。
「長唄、舞踊、書道、茶道、華道、ピアノ、料理に囲碁将棋と、講座は実に多種多様。『松・竹・梅』の3段階があり、習熟度にあわせたお稽古が行われていたようです。」と鈴木さん。最初は23講座でスタートし、すぐに30講座を超えたことからも、人気のほどがうかがえます。ユニークなものでは、漫才師の横山エンタツ氏と落語家の三遊亭圓馬氏が講師を務める「笑いと話術」という講座もありました。

観世流・山本博之氏による謡曲・仕舞のお稽古

憧れの機関誌「趣味道場」

「趣味道場」という機関誌も、発行されていました。表紙絵を描いたのは、小磯良平氏や橋本関雪氏など日本画壇を代表する巨匠たち。筝曲家の宮城道雄氏や歌人の吉井勇氏の編集記事もあり、「各界で名を馳せた、偉大な文化人の先生方にご登場いただいています。」と鈴木さんも感嘆するほど。「当代一流の文化や教養に触れられる、憧れのカルチャー誌だったのでしょうね。」

煎茶花月菴流のお稽古

お稽古を気軽な愉しみに

「趣味道場」には、このようなお客様のお声が掲載されています。『お稽古の簡易化、大衆化だわね。こういうところだと来やすいし、お師匠さんも一流だし、設備だって行き届いているわけだし。』
松坂倶楽部によって、敷居が高かったお稽古は、誰でも気軽に参加できるエンターテイメントになりました。「百貨店がお品物を揃えるだけではなく、愉しみを共有する場として進化していく先駆けとなりました。」と鈴木さん。昭和23年に制定され、長年親しまれてきた“生活と文化を結ぶマツザカヤ”という松坂屋のキャッチフレーズにも、脈々と伝わるこの松坂屋スピリットが息づいています。
松坂屋名古屋店のカトレヤ文化教室は、松坂倶楽部のコンセプトをしっかりと受け継ぎながら、新しい発見や交流を愉しむ場として時代によってかたちを変えながら、皆様のこころのオアシスであり続けてこられましたことに感謝申し上げます。
●史料提供:一般財団法人 J.フロントリテイリング史料館

春日派小唄家元による小唄のお稽古
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